19時、海風が頬を撫ぜる丘でさよならを。
「…祈梨でいいよ、純」
「いえい!交渉成立!」


たったこれだけのやりとりなのに、こんなハイテンションになれる純が羨ましいなとも、思った。

だけどそれ以上に、たったこれだけのやりとりで上向きになってる自分の気持ちのほうに、驚いていた。


「ねえ?純は、漁師のお父さん、どう思う?」


私は自分の父親を誇れないことを、子供として普通のことだって確認したかったのかもしれない。

変に高揚したせいか、唐突にこんなことを聞いてしまった。


「ん?頑固でめんどくせー奴だけど、漁師としては尊敬してる、かな」
「そうなんだ」


尊敬、かぁ…私は出来そうもないや。
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