19時、海風が頬を撫ぜる丘でさよならを。
「ん。だけどやっぱ父親としてってなると、どうかなぁ。俺さ、妹いんだよ。でも妹は漁師なれとは言われてなくて」


ちょっとがっかりしたところで、純が言葉を続けた。


「そりゃそうだよ、女の子だもん」
「まあな。でもさ、別に女だからとかもうあんまり関係ねーっちゃねーんだよ。船だって手で漕ぐわけじゃねーし、網の巻き上げだって機械だし」
「まあ確かにそういう時代だよね」
「力使う場面はもちろんあるから、男のほうがいいのはそうなんだろうけど。時々、俺が男じゃなかったら跡継げとか言われなくてもっと自由だったのかな、とか思っちゃうんだよな」
「そっか…」


なんか…窮屈そうだな、と思った。


「なーんてな!でも別に継ぐの嫌じゃないぜ、海好きだし。ただ、ちょっと本土に住んでみたりとか、そういうのがあったらなぁって。選んで漁師になるのとそれしかねーのって、また違うだろ?」
「うん、なんかわかる。うちらってさ、子供ってさ、なんで選択肢がないんだろうね」
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