19時、海風が頬を撫ぜる丘でさよならを。
「本当は、俺が祈梨をどこかへ連れて逃げたらいいと思ったんだ。けど中学生の俺たちが二人だけで生きていけるほど、日本は緩くないだろ?仕事だってきっとロクな選択肢もなくて、病気したって保険証も出せないじゃ病院にもかかれない。悔しいけど、今の俺じゃ祈梨をもっと不幸にしちまう」
「だからって!一緒になんてダメだよ!死ぬのは私だけでいいんだから!」
「俺もこのまま黙って漁師になるのは嫌なんだよ!」
「純…」
私の目を見て真剣な表情で語る純から、目が離せなかった。
一緒に死のうなんて、そんな恐ろしいこと、冗談で言ってるとも思えない。
だけど、その言葉を聞いたとたん、私はどこか体の奥が痺れるみたいに震えたような気がした。
思ってしまった。
一緒がいいと。
その響きの甘さに。
ときめいてしまった。
連れて逃げるなんて言葉も、甘すぎた。
純にとっては悩みを聞いてしまった責任感とか優しさなんだろうけど、私にとっては愛の告白みたいに聞こえた。