19時、海風が頬を撫ぜる丘でさよならを。

心中というワードに加え、この『大人を欺いて島を出る』ことが、なんだかゲームみたいでワクワクする。

それに。

私にとって、これは初めてのデートでもある。

恋人同士じゃないけど、最初で最後のデート。

こんなの、どうしたって胸が高鳴るに決まってる。

船着き場が見えた。

あ、いた。

待合いベンチに純がいる。

どこかの知らないおじいちゃんと楽しそうに話しながら、軽く肩を叩かれていた。

「親父には言わんでな、小藪のじっちゃ」
「わかってるわかってるって!きっちゃんだってガキん頃に島ぁおん出てったことあったもんよぉ」
「え?親父も?初めて聞いた!」
「そうやってみんな大人になんだよぉ」

湊の駐車場脇に自転車を停めて、乗船券を買い、ベンチに座る。

おじいちゃんは純との話に夢中で、私には興味ないようだった。

私はすぐに純と会話したかったけど、二人の会話が落ち着くまではガマンだ。

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