水性のピリオド.


「なに、アレ」


さっきより言葉数が減ってない?

だいぶ文字が足りていない。

アレ、をわたしに言わせたいんだろうけど、そんな見え見えの魂胆には乗らないよ。


「せんぱい」


泣きそう顔、泣きそうな目、泣きそうな声。

三点セット、ぜんぶ真正面から受け止める。

もらった分のお代くらいは、ちゃんと返さなきゃね。


「別れよう、って言ったの」


「いやだ!」


おお、いいお返事だ。

できればそれが『わかりました!』なら、なおよかった。


「みんな寝てるの。大声出さないで」


「あ……」


噛み締めた歯が覗く程度に開いていたくちびるを真一文字に引き結ぶ。

ついでに両手の拳もぎゅっと握りしめて、はるは慎重に口を開いた。


「なんで、そんなこと言うの?」


「理由を言ったら納得する?」


「しない。どんな理由でも、しない」


「じゃあ、教えない」


ヒントはあげたんだよ。さっきのメールで。

こんな時間に家に来るくらい、動揺したってことは、別れよう、って文字のところだけしか見てないんじゃないかな。


「ボウシとトリ」


「え……?」


「わかる? なんのことか」


意味は伝わっていなくてもいい。

たしかに少し遠回しになりすぎたと思うから。


「わからないです」


素直でよろしい。

わたしが一分くらい頭を捻ったあのギミック、ちゃんと見抜いてほしかったな。


「マジックでした。ほら、ボウシの中からハトとか出てくるでしょ」


「あ、ああ……はい。それが、なに……?」


「で、そのマジックって、油性なんだけど」


はると、ついでにサスケの頭の上にたくさんのハテナが浮かんで見える。

サスケはたぶん、どうしてはるくん遊んでくれないの? って感じなんだろうけど。


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