水性のピリオド.
「おれのこと、嫌いになった?」
「ううん」
「おばさんとおじさんと、杏ちゃんと叶人くんに、おれなんかやめとけって言われた?」
「ううん」
「サスケは俺のこと嫌い?」
クゥン。
サスケが寂しそうに、悲しそうに鼻を鳴らした。
ちがうよ、サスケははるのことが好きだよ。
「先輩、おれのこと好き?」
「うん」
やめてよ、自分で聞いておいてびっくりするの。
たった二文字の肯定は、たくさんの言い分や意味のちがいを引き連れているけど、はるからは見えないものばかりだ。
好きだよ。はるのこと。
でも、その好きは、はるの好きとはちがうんだ。
上手く言えないんだけどね。
たとえば、ライクとラブのちがいみたいなことじゃない。
横文字はあんまり得意じゃないから言い換えると、ちゃんと恋慕としての『好き』をはるに対して持ってる。
はると同じ色の気持ち。
はるは信じないだろうけど、同じくらいの大きさの気持ち。
はるより少し短いけど、ほとんど変わらない経過を経た気持ち。
それでも、なにか、どこかがちがう。
そう、たとえるなら、これしかない。
「わたしの 好き は水性だからさ」
薄れていくんだ。
わたしもそれが実はいやで、かなしくて、止めたくて、必死に水性の文字を重ねようとするんだけど、もうインクがつかないんだ。
残された油性のペンは、好きって文字に重ねるにはあまりにも毒々しい色をしていて、はるの好きを飲み込んでしまいそう。
だから、べつの言葉を重ねた。
『好き』の文字の『子』の部分の横棒がまだ残っていたんだけど、それすら覆って見えなくするみたいに『別れよう』って書いた。