水性のピリオド.
一緒にいる時間のあいだ、何度も何度も好きだと伝えた。
照れくさがってあんまり好きって言わなくなった春乃くんの代わりに、何度も。
最初は不安そうだったし、わたしも岩井くんの影がちらついていた。
岩井くんのことを好きになったわけじゃないけど、彼との未来もどこかに細く可能性としてあったのだろうから。
何度も触れ合って、抱きしめ合って、深いところを繋いでも、春乃くんとずっと一緒にいられる未来なんて見えなくて。
手探りで、毎日必死に恋をしているような、そんな時間だった。
杏ちゃんと叶人くんに顔合わせをしてからは、わたし以外にわたしとの繋がりができたことにホッとしていたけど、長くは続かなかった。
不安ってやつはどこにでも芽生える。
しあわせとか、楽しい思い出を植えたはずの場所から不安の芽が出たときの気持ちに何度も耐えられるほど、つよい心は持っていない。
春乃くんのこと、『はる』って呼ぶようになったのは、そうすると春乃くんが喜ぶって思ったから。
案の定、もう一回呼んで、百回呼んで、ってせがまれた。
たぶん、ゆっくり変わっていったんだ。
好きだけど、ちゃんと、恋として好きだけど。
たとえばはるの好きとわたしの好きは、油性と水性みたいなちがいがある。
それに気付いてしまったら、もう止まれなかった。
だから、さよならをしようって、決めた。