水性のピリオド.
理由は言わないんじゃなくて、言えない。
だって、なにも確かじゃないし、もろいところを突かれたら庇う間もなく朽ちていってしまう。
杏ちゃんと叶人くんがこの場にいたら。
杏ちゃんには頬を引っぱたかれて、叶人くんには肩を掴んでぐらんぐらんに揺すられるんだろうな。
なにしてんの、ばかじゃないの、って杏ちゃんは怒る。
なにしてんだ、このばか姉、って叶人くんは涙目になる。
そういうふたりのストッパーのおかげで、今日まで油性ペンを手に取らずにいられたんだと思う。
ありがとうね。杏ちゃん、叶人くん。
ふたりが起きるまであと四時間くらいしかないけど、いい夢が見られるように祈っておこう。
わたしはまだ、夢のなかにはいけないみたいだからね。
「なんで、泣くかなあ……」
呆れた風に言ってみるけど、逆の立場だったらわたしだって泣いてる。
心底困った、もうどうしてくれようこの男の子、みたいな具合で、サスケを下におろすことでひとり分のスペースが用意されたわたしの腕のなかに、はるは飛び込んできた。
おおきな体、高い背丈、ほっそりとして見えて意外と分厚い。
肩に埋まるはるの鼻先から水音が聞こえる。
やだ、鼻水つけないでよ、って言いたかったけど、言えなかった。
肩の辺りの布がしっかり三箇所じんわりと生ぬるくなっているから、泣いてることには変わりない。
ついでに、これはもう絶対、鼻水もつけられてる。
漏れる嗚咽が耳に近くて、このままずっと聞いていたら、きっと口走ってしまうんだろう。
さっきの、嘘にしようか、って。
嘘じゃないから、嘘だよ、とは言えないけど。
わたしが勝手に決めたことに、はるも巻き込んであげよっか。
だけど、そうしたら、わたしが負けちゃうから、やっぱりダメ。