水性のピリオド.
しあわせのピリオド
◇
「かっこいいね」
外では中途半端な袖丈を、学校のなかではどちらか選ばないといけないのが憂鬱だった。
けど、そんな理由で休むのは何だか勿体ない。
一昨日は冬服、昨日は夏服、今日は冬服。
昨日は午後になった途端に冷え込んで、半袖を選んだことを後悔したから今日は長袖にしたのに、大失敗。
教室を出るときは羽織っていないといけないブレザーを小脇に抱えて帰ろうとしていたとき、階段の踊り場で足を止めた。
ひらっと階段の手すりを軽やかに跨いで駆けてきた男の子。
わたしを見つけて、ぴたっと動きを止めた。
無表情で見つめるわたしとは対照的に、男の子の頬が火照っていく。
階段上の男の子の見上げていると、その肩からずるりとカバンの紐が落ちて、開いたファスナーの隙間から飴玉が転がり落ちてくる。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
きいろ、あか、みずいろ。
ぜんぶ下まで転がってきて、わたしの足元で止まった。
慌ててカバンを引っ掴んでおりてくる男の子をよそに、わたしはしゃがみこんで飴玉を拾う。
「あ、あの」
頭のてっぺんに声が落ちてくる。
低すぎず、平坦すぎず、聞きやすい声だ。
右手にのせた飴玉を差し出すけど、受け取ろうとしない。
「さっき、なんて……」
さっき?
……ああ。
きみがヒーローみたいに登場したときの、わたしのセリフか。
「かっこよかったよ。マントとかつけてたら、満点だった」
「あああ……やっぱり、見られてた」
赤い顔をさらに濃く染め上げて、わたしの前にしゃがむ。
そうして頭を抱えると、うー、とか、あー、とかボソボソ言い始めた。
なんだろう、この状況。
ふたりして階段下で座り込んで、ひとりは頭を抱えているし、ひとりは飴玉をのせた行き場のない手を宙に置き去りにしてる。