魔法使いになりたいか
§7
一人で静かに過ごすはずだった俺の誕生日が、親父の命日と重なったせいで、こんなにもにぎやかになる。
食事が終わった後も、結局なんだかんだで、空き部屋になっていた二階の部屋の掃除とか、片付けやらを手伝わされた。
体を動かしていたのは俺なのに、指示していたのだけのあいつらは、頭使って疲れたとかで、夕飯の買い出しにも行かされた。
が、まぁそれはいい。
あいつらが買い出しに行って、料理するとか言いだすと、まともな食事が出来るのかとハラハラして、そっちの方が落ち着かない。
夜になっても、シャンプーがどうとか、シャワーの出が悪いとか、なんだかんだでバタバタして、ずっと振り回され続けた。
俺はすっかりくたびれて、自分の部屋に戻った時には、いつのまにか寝落ちしてしまっていた。
朝になって、二人を追い出すことが不可能と悟った俺は、うるさいのが起き出す前に、朝食の準備を完璧に済ませておいた。
箸置きもみそ汁の温度も完璧だ。
そうしておけば、いちいち顔を合わせなくてすむし、文句も言われずにすむ。
俺はそうやって奴らを出し抜いてやったことで、非常に爽快な気分で店の前を掃除していた。
「私は魂の指導者!」
目の前をさっと黒い影が横切ったと思ったら、昨日の老猫だった。
「あ、おはよう」
「お前はそれでいいのか」
「なにが?」
「このまま、何もない無能かつ平凡な男として、一生を終わらせるか」
足元にうずくまった老猫の鋭い目が、キッとにらみつける。
「それとも、修行をつんで魔法使いになるか」
この猫は、どこまで本気でそんなことを言ってるんだろう。
確かに魔法使いは魅力的だけど、修行となると面倒くさい。
「えぇ~、でも俺、面倒くさいこととか、しんどいことって、基本嫌いなんだよねぇー」
「このままだと、あいつらのいいように使われて人生が終わるぞ」
「あいつらの、いいように使われる?」
あいつらって、どいつらのことなんだろう。
昨日来た祈祷師? それとも、時々店にやってくる万引きの常習犯?
それとも、やたら高慢な商店街のお偉いさんたちのこと?
この先俺を、いいように扱うであろう可能性のある人間の数を想像してみると、急に背筋がぶるっと震えた。
違う、そんなどうでもいい奴らのことじゃない、うちに転がりこんできた、あの女共のことだ!
「そんなこと、いいわけないだろ!」
「よし! 作戦会議だ!」
「作戦会議だ!」
店の中に飛び込んでいった老猫を、慌てて追いかける。
店に入った猫は、当たり前のようにレジ台の上に飛び上がり、俺がいつも座っている座布団の上に腰を下ろす。
「あのさ、猫が苦手な人もいるんだから、そこはやめてくれない?」
「私は魂の指導者!」
「あぁもう、分かったよ」
それを認めないと、話しが進まないらしい。
俺は時々やってくる常連のお婆ちゃんのために用意してあった座布団を、レジ横の座布団の隣に並べた。
「じゃあ、ここにして」
老猫は、案外すんなりと場所を移動してくれる。
「まずは、どんな魔法使いになりたいかだ。その方向性によって、修行の内容も変わってくる」
「えー、修行って、本当に必要なの?」
「当たり前だ!」
「うぅ~ん、どうしよっかなぁ~」
俺は、自分が魔法使いになった姿を想像してみる。
箒で空を飛べても、店番をしないといけないから、出かけることは出来ないし、お部屋を綺麗にする魔法だって、普段からこまめに掃除しているから、特段必要ではない。
「やっぱ、いいや」
「なにか叶えたい望みはないのか?」
「俺の、望み?」
食事が終わった後も、結局なんだかんだで、空き部屋になっていた二階の部屋の掃除とか、片付けやらを手伝わされた。
体を動かしていたのは俺なのに、指示していたのだけのあいつらは、頭使って疲れたとかで、夕飯の買い出しにも行かされた。
が、まぁそれはいい。
あいつらが買い出しに行って、料理するとか言いだすと、まともな食事が出来るのかとハラハラして、そっちの方が落ち着かない。
夜になっても、シャンプーがどうとか、シャワーの出が悪いとか、なんだかんだでバタバタして、ずっと振り回され続けた。
俺はすっかりくたびれて、自分の部屋に戻った時には、いつのまにか寝落ちしてしまっていた。
朝になって、二人を追い出すことが不可能と悟った俺は、うるさいのが起き出す前に、朝食の準備を完璧に済ませておいた。
箸置きもみそ汁の温度も完璧だ。
そうしておけば、いちいち顔を合わせなくてすむし、文句も言われずにすむ。
俺はそうやって奴らを出し抜いてやったことで、非常に爽快な気分で店の前を掃除していた。
「私は魂の指導者!」
目の前をさっと黒い影が横切ったと思ったら、昨日の老猫だった。
「あ、おはよう」
「お前はそれでいいのか」
「なにが?」
「このまま、何もない無能かつ平凡な男として、一生を終わらせるか」
足元にうずくまった老猫の鋭い目が、キッとにらみつける。
「それとも、修行をつんで魔法使いになるか」
この猫は、どこまで本気でそんなことを言ってるんだろう。
確かに魔法使いは魅力的だけど、修行となると面倒くさい。
「えぇ~、でも俺、面倒くさいこととか、しんどいことって、基本嫌いなんだよねぇー」
「このままだと、あいつらのいいように使われて人生が終わるぞ」
「あいつらの、いいように使われる?」
あいつらって、どいつらのことなんだろう。
昨日来た祈祷師? それとも、時々店にやってくる万引きの常習犯?
それとも、やたら高慢な商店街のお偉いさんたちのこと?
この先俺を、いいように扱うであろう可能性のある人間の数を想像してみると、急に背筋がぶるっと震えた。
違う、そんなどうでもいい奴らのことじゃない、うちに転がりこんできた、あの女共のことだ!
「そんなこと、いいわけないだろ!」
「よし! 作戦会議だ!」
「作戦会議だ!」
店の中に飛び込んでいった老猫を、慌てて追いかける。
店に入った猫は、当たり前のようにレジ台の上に飛び上がり、俺がいつも座っている座布団の上に腰を下ろす。
「あのさ、猫が苦手な人もいるんだから、そこはやめてくれない?」
「私は魂の指導者!」
「あぁもう、分かったよ」
それを認めないと、話しが進まないらしい。
俺は時々やってくる常連のお婆ちゃんのために用意してあった座布団を、レジ横の座布団の隣に並べた。
「じゃあ、ここにして」
老猫は、案外すんなりと場所を移動してくれる。
「まずは、どんな魔法使いになりたいかだ。その方向性によって、修行の内容も変わってくる」
「えー、修行って、本当に必要なの?」
「当たり前だ!」
「うぅ~ん、どうしよっかなぁ~」
俺は、自分が魔法使いになった姿を想像してみる。
箒で空を飛べても、店番をしないといけないから、出かけることは出来ないし、お部屋を綺麗にする魔法だって、普段からこまめに掃除しているから、特段必要ではない。
「やっぱ、いいや」
「なにか叶えたい望みはないのか?」
「俺の、望み?」