LOST~失われた日常~
「…ねぇ、結構暗くない?」

「なんだよ咲奈、ビビってんのか!?大丈夫だって!!俺は金属バット持ってるし、お前だっていざとなればその足で逃げられんだろw」

そうニカッと笑いながらバットを振りかざす和樹に若干頼もしさを感じつつ周囲をみやる。

空を見上げるとまだ夕日は出ているものの、木々がその光を遮り周囲は薄暗く、視界が悪くなってきていた。

(早めに帰らないと私達も迷子になっちゃいそう…)

そんなことを考えながら探索していると和樹がピタリと立ち止まった。

「ねぇ。どうしt」

「しっ…何か聞こえる。」

そう、いつになく真面目な表情の和樹につられて耳を済ませると、遠くから落ち葉を踏む音が聞こえた。…どうやら走っているらしいことがペースから伺えた。

「一応隠れるぞ。」

「…うん。」

短い会話の後、私達は背の高い草の生えた茂みに身を潜めた。

しばらくすると音の主であったらしい男が現れた。だが、様子がおかしい。酷く何かに怯えたような表情をして、異常に息を切らしていてこちらからでも胸が上下している事が伺える。

そして何より、腹部からかなりの出血をしていた。手で抑えて止血をしているらしかったがそれでも足元にポタポタと血が滴っていた。

脇目も振らずに走り去っていくその男が見えなくなるまで茂みに隠れ、そろそろ大丈夫かと思った時、

「アイツ…今指名手配されている野郎だ。目の下の傷と手首のタトゥーに見覚えがある。」

と、和樹が声を潜めて言った。

「えっ…それってヤバいんじゃ…」

「あぁ、めちゃくちゃヤベぇよ。早く美幸見つけねぇと…」

「いや、いるか分からないのにそんなこと言わないでよ…私達の方がよっぽど今は危ないでしょ?」

「確かにそうだけど…」

私は正論をぶつけたつもりだったが、和樹はどうも納得がいかない様子だ。

「はぁ…これで私が帰ってもあんたどうせ1人でまた戻って来ちゃうでしょ?私も付き合うわ。」

和樹が正義感が強いのは長年の付き合いで重々承知していた。また親友を失うなんてたまったものでは無い。

「マジ!?」

「うん、でも後30分だけだよ?」

「そんだけあれば十分だ!…じゃあいくか。あんまり物音立てんなよ。」

その言葉に頷くと、私達は探索を再開した。
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