君が忘れる今日
この人・・・どこかで見たことある気が・・・
するとその女性はニコッと笑った。
「娘のね、日記が出てきたの。」
そう言って一冊のシンプルな本のようなものを渡された。
「ありがとうね、娘のために泣いてくれて」
そうだこの人は、彼女にそっくりだ。
僕は受け取った日記を見つめた。
なぜ僕に?僕の名前をどうして?
いろんな疑問はあったけど、すごく気になった。
毎日記憶をなくしてしまう彼女の日記。
どんな言葉が綴られているのだろう。
どんな毎日を過ごして、どんなことを感じていたのだろう。
彼女のお母さんはそんな僕の姿を見て、会釈をして傍を離れてくれた。

恐る恐る日記の一ページ目を開いた。
『18歳になった今日から日記をつけます。
私はー』
そこには自分の記憶が毎日無くなってしまうこと、今までの自分のことなどが事細かに書かれていた。
でも二日目には
『覚えていない。私の記憶はまだ16歳のままです。でもどうやらもう18歳になっているみたい』
毎日、毎日。たまに涙で滲んだと思われる跡があった。
僕は締め付けられる胸を押さえながら丁寧に、紙を捲っていった。
そして僕らが出会った日。
『4月10日。不思議な男の子に会った。
自分のことを ダサい と言っていた。
とっても気になったので聞いてみた。
そしたらね、ケガしてダサいって言ってたんだって!
失礼しちゃうね。そしたらこんなおかしな病気になっちゃった私はもっとダサいよ』
「…っんなわけ…」
そんなわけ、ないだろ。
『4月11日。
多分昨日の日記に書いてあった男の子に、また会った。
あの人、私と話してるとね、不器用に笑うの。
なんでだろう?
名前は、聞いてない。多分昨日も聞いてないと思う。
だって明日には忘れちゃうから。
楽しかったこと忘れるのは、とっても寂しいから』
楽しい…。
そっか、そう思ってくれてたのか。
それからの日記には主に僕やお母さんとのことが記されてた。
何を話した、だとか、何をした、だとかそんな他愛無いことを、彼女はとっても楽しそうに綴るんだ。
そしてたまに病気について嘆く言葉が綴られていた。
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