君が忘れる今日
僕も、君の名前を呼びたかった。
何度でも、呼びたかったよ。
「ごめんなさいね。悲しい気持ちにさせてしまって」
「っいいえ!!…むしろ、なんかすみません。僕なんかに娘さんの大切な時間を…」
彼女と居れた時間を幸せだと思っていた。
けれどその貴重な時間を、お母さんや家族から、奪っていたことに、少しの罪悪感を覚えた。
「…娘はね。この病気になってから、毎日、酷かったの。母親の私でさえ目を合わせるのが痛いくらいにね。いや、母親だからかな」
その人は、思い出すように、苦しそうに、苦笑いを浮かべた。
「でも、一か月くらい前から、毎朝の日記を読む表情が変わったのよ」
一か月前…
「なんか楽しそうに毎日外へ出かけては楽しそうに帰ってきてね、何があったか楽しそうに話してくれるの」
容易に想像できてしまう僕の知ってる彼女の姿に、僕は思わず笑みがこぼれた。
「それからは毎日、いつもありがとう、とかそういう他愛無い嬉しい言葉、沢山貰ったわ」
さっきまでの苦しい笑顔とは違う、思い出して幸せそうな、それでいて彼女と似た儚い笑顔。
「ある日ね、“お母さんみたいなお母さんになるのが夢だったんだ”って話してくれたの。もう私嬉しくって!」
そう言った“お母さん”は、本当に彼女にそっくりだった。
「…だからね、すみません、なんて言わないで?」
僕はハッとした。
「私も、お父さんも、そんな娘の姿を見れて本当に嬉しかったし、幸せだったのよ」
涙を流しながら、笑顔で。
僕を気遣ってくれたんだ。
「…あの、僕。」
少し迷った。こんなこと言うのは間違ってるのかもしれない。
「僕、彼女のこと…っ、朔さんのこと、大好きでした…!!」
迷惑かもしれない
「優しくて、綺麗で、明るくて…!…僕は彼女のすべては知らないけどっ」
間違いなくエゴだけど
「僕の知ってる彼女のすべてが…好きでした…っ」
伝えたかった。
答えなんて返ってこないのに。
お母さんに言っても困らせてしまうだけなのに。
直視できないお母さんの顔を、覗き見た。
そして僕は驚いた。
涙一つ流さずに、優しい笑顔だった。
「娘も、あなたのこと、大好きだったわ」
君が忘れる今日を、僕だけが23回も過ごしていたと思ってた。
でもちゃんと、君の中にもあったんだ。
何度でも、呼びたかったよ。
「ごめんなさいね。悲しい気持ちにさせてしまって」
「っいいえ!!…むしろ、なんかすみません。僕なんかに娘さんの大切な時間を…」
彼女と居れた時間を幸せだと思っていた。
けれどその貴重な時間を、お母さんや家族から、奪っていたことに、少しの罪悪感を覚えた。
「…娘はね。この病気になってから、毎日、酷かったの。母親の私でさえ目を合わせるのが痛いくらいにね。いや、母親だからかな」
その人は、思い出すように、苦しそうに、苦笑いを浮かべた。
「でも、一か月くらい前から、毎朝の日記を読む表情が変わったのよ」
一か月前…
「なんか楽しそうに毎日外へ出かけては楽しそうに帰ってきてね、何があったか楽しそうに話してくれるの」
容易に想像できてしまう僕の知ってる彼女の姿に、僕は思わず笑みがこぼれた。
「それからは毎日、いつもありがとう、とかそういう他愛無い嬉しい言葉、沢山貰ったわ」
さっきまでの苦しい笑顔とは違う、思い出して幸せそうな、それでいて彼女と似た儚い笑顔。
「ある日ね、“お母さんみたいなお母さんになるのが夢だったんだ”って話してくれたの。もう私嬉しくって!」
そう言った“お母さん”は、本当に彼女にそっくりだった。
「…だからね、すみません、なんて言わないで?」
僕はハッとした。
「私も、お父さんも、そんな娘の姿を見れて本当に嬉しかったし、幸せだったのよ」
涙を流しながら、笑顔で。
僕を気遣ってくれたんだ。
「…あの、僕。」
少し迷った。こんなこと言うのは間違ってるのかもしれない。
「僕、彼女のこと…っ、朔さんのこと、大好きでした…!!」
迷惑かもしれない
「優しくて、綺麗で、明るくて…!…僕は彼女のすべては知らないけどっ」
間違いなくエゴだけど
「僕の知ってる彼女のすべてが…好きでした…っ」
伝えたかった。
答えなんて返ってこないのに。
お母さんに言っても困らせてしまうだけなのに。
直視できないお母さんの顔を、覗き見た。
そして僕は驚いた。
涙一つ流さずに、優しい笑顔だった。
「娘も、あなたのこと、大好きだったわ」
君が忘れる今日を、僕だけが23回も過ごしていたと思ってた。
でもちゃんと、君の中にもあったんだ。