混沌と静寂
今日も電車が止まった。
惨劇を目の前にすると不思議と
羨ましいという気持ちがわいてくる。
硬い何かが弾ける音、肉が潰れる音、
周囲にちった生ぬるいような、血。
一瞬の静寂。
直ちに訪れる人々の恐怖、注目、悲鳴、
散乱したものを凝視したまま、
ただただ立っている人。口を開けてそれを食べようとしているのか。
うずくまって泣いている人、
それに当たって腹が痛いのか。
スマホに散った血液を、
白いハンカチーフで拭いて、
その場に捨てる。
一部赤黒く染まったハンカチーフは、
為すすべ無くひらひらと落ちてゆく。
あの人もそうだった。
まるで直前で操り人形の糸を切られたかのように
為すすべ無く優雅にひらひらと空を歩いて、
それから散った。
他人の死を間近で見ることが出来たこと、
感謝するよ。
誰だか知らないが、飛び散ってくれてありがとう。
空を歩く前に脱げた彼の黒く光った靴を
ビジネスバッグに入れて持ち帰った。
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