さよなら、センセイ


「まず、歩さんの事は全く関係ありません。
それと、私の年齢が若いことは、どうにも出来ません。
ご心配させてしまい、申し訳ありません。

ですが、私は、恵さんがいいんです。
いつでも一生懸命で、真っ直ぐで、私のことを色メガネで見たりしない。精一杯支えてくれる。

《丹下》、《アリオン》の名前で寄ってくる輩などロクな奴はいません。

私は若月さんのように、祖父や父の築いた財産を守り、さらに大きく育てていきたい。
その為には、家柄ばかりの女など要らない。

私には、恵さんが必要なんです」


ヒロが、両家の両親の前で高らかに宣言する。

迷いも、躊躇いもない。
確固たる意志の力をみなぎらせていた。
それは、まるで、王者の貫禄すら感じさせる。


怒りに震えていた武二の目がヒロを捉える。
ヒロの発するオーラに魅入られる。


ーーこいつは、ただ者ではない。


「恵。
こりゃ、どえらい人を選んだもんだなぁ。
負けたよ、広宗さん。
応援させてもらうだよ。目一杯、デッカい男になりなせぇ。
恵の相手が、貴方で良かった」

それまでの怒りなど忘れたかのように、武二は笑ってぽんと自分の頭を叩いた。
武二が、ヒロを認めた瞬間だった。
それから、ヒロと握手を交わす。


「いや、私も驚きました。
我が息子ながら、こんな立派な事が言えるようになっていたとは。
これも、恵さんのおかげです。
若月さん、これからもよろしくお願いします」

久典もヒロの成長を感じ、感無量とばかりの表情で武二と握手を交わした。

「さあさ、うちで採れた野菜も、食べて行って下さいな。お酒も、まだまだありますから」

それまで黙って事の行方を見守っていた恵の母イチ子が、両手一杯の大皿に料理を持ってきた。

和やかに懇談が始まる。
久典と武二は、酒を酌み交わしながら打ち解けていった。
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