さよなら、センセイ
そして、シンデレラの魔法にかかる。
光沢のある薄いブルーのワンピース。
髪は軽く巻かれ、いつもよりちょっと濃いめのメイク。

「恵ちゃん、どう?」

ヒロの着替えのチェックを終えたジュンが恵の様子を見に来た。

「うーん。

…だめね。この色は恵ちゃんには似合わない。

アイボリー…そう、アイボリーのシャツワンピースにしましょ。持ってきて。
ウエストにスカーフをベルトとしてむすんで」

ジュンの指示でスタッフがせわしなく動いてくれた。

「うん。これがいい。恵ちゃんらしいわ」

「わぁ、素敵。なんか、カッコいい!
ジュンさん、やっぱりすごい!」

「ありがと。

今夜は2人でとことん話し合うのよ。
本音でぶつかれば、きっと解決策は見つかるわ。
一番大切なのは、お互いの気持ちよ。

アタシ、あなた達は最高のカップルだと思ってる。羨ましいくらい」

鏡越しにジュンがニッコリ微笑む。
そのジュンの向こうに、黒のスーツ姿のヒロが見えた。

「ヒロ、仕上げ」

ジュンはヒロに気づくと、スーツの胸ポケットにハンカチーフを入れて少し先を覗かせた。
よく見れば、恵のベルトがわりのスカーフと同じ柄。
さりげなく、お揃いのコーデ。

「うーん、いい男。
高校生とは思えない色気〜完璧よ、ヒロ」


「ありがとう、ジュン。

支度出来たなら、行こう。車、待たせてる」

「わ、わかりました」

恵は思わず、ヒロに見とれていた。
今日のヒロはいつもとどこか違う。
恵に対して、わずかに壁があるような、よそよそしさ。

ーー当たり前よね。
別れを告げた相手に、今まで通りに接する訳ない。

淋しさと悲しみが押し寄せて、恵の顔に暗い影を落とす。

「いってらっしゃい、2人とも。
ヒロ、しっかりね」


店の外。見覚えのある丹下家の外車が止められていた。

「あぁ。
さ、乗って」

< 116 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop