さよなら、センセイ
車内では、会話はなかった。
ヒロは窓枠に肘をついて、外の景色をぼんやりと見ている。
恵は、俯いてただ膝の上の自分の手を見ていた。

どこに行くの?と尋ねる前に、車は有名ホテルで止まった。

ホテルストリーク。
ここは、以前来たことがある。
最上階には、夜景が楽しめて個室もあるレストランがあった。たぶん、ヒロはそこへ行くつもりだろう。

ヒロは何も言わない。
恵も、黙って後ろをついていく。乗ったエレベーターの押されたボタンを見て、恵の予想が当たったことに気づく。

以前来たのは、恵の誕生日だ。
あの時は、丹下夫人も一緒に楽しく過ごした。
でも、今日は違う。

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