さよなら、センセイ
「さて。

じゃ、俺も行こうかな」

ヒロは、恵のかたわらで大きく伸びをした。
恵は笑って手を差し出す。

「さよなら。

光英学院高校三年A組、丹下広宗くん」

ヒロも笑ってその手をぎゅっと握った。

「若月先生、さよなら。



…さよなら、センセイ」



ヒロが声を震わせていた。
恵と過ごしたこの一年間が、走馬灯のように彼の頭を駆け抜けていく。

楽しかったこと、辛かったこと、悩んだこと。全てがいつしか思い出に変わっていた。
あっと言う間の一年間だった。

そしてヒロは目を細めながら最高の笑顔を浮かべると恵の手を離し、背を向けた。


このまま、校門をくぐれば教師と教え子という関係は終わる。
ヒロにとって恵は先生ではなく、これからの人生を共に歩むパートナーとなるのだ。

校門をくぐる寸前、ヒロはもう一度振り返った。
恐らく同じ思いなのだろう。恵も校舎を見上げていた。
振り返ったヒロに気づき、小さく手を振っている。

ヒロも恵に笑い返し、そして歩みを進めた。もう振り向かず、三年間通った学校をあとにした。

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