さよなら、センセイ
「相変わらずだなぁ、桜木は。
先輩の声を聞けて、もっと喜ぶかと思ったけど。

久しぶりなんじゃないですか?」

スマートフォンの画面を戻しながら、ヒロは一条に問う。


「いぶきがアメリカに行ってから、初めて声を聞いたよ」

「えっ⁉︎じゃあ二年ぶりですよ!電話やメールくらいすればいいのに」


驚くヒロ。
一条は、自嘲的な笑みを浮かべて何も言わない。


「声聞いたら、会いたくなりますよね?
姿を見れば抱きしめて離したくなくなる。

互いの夢の為に、目の前の今しかできない事をやらなきゃいけないなら、尚更、何もできませんね。

ヒロ。

私たちも、同じよ」

言った恵の目はわずかに潤んでいる。

一条といぶきの気持ちが手に取るように分かる。
同じ状況にあれば多分、恵も、ヒロに心配させたくなくて素っ気ない態度を取るだろう。

でも、本心は。


一条の目が語っている。

ただ、逢いたいと。

淋しい、と。



「ま、拓人の場合は、ビルより高いプライドも邪魔してるんだけどね〜
自分からいぶきちゃんに電話なんて、ムリムリ。

その点、ヒロは違うわ。
たぶんマメに連絡するわよ〜
少しでも時間ができたら会いに行っちゃうと思うわ。
だから、大丈夫。

恵ちゃん、距離の取り方は人それぞれだから。

拓人は互いに自由なまま、未来に賭けた。
ヒロは結婚で互いを繋いで、未来に賭けた。

似てるけど、面白いほど違うわね」

クスッと笑って、ジュンは一条とヒロの間に入って、2人の肩に腕を回して抱き寄せた。


< 136 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop