さよなら、センセイ
「あ、そうだ」

ヒロは、恵の肩に手を置いてその耳元で囁いた。

「もし、妊娠してたら、必ず連絡して」

「え?

それは、ないでしょ。


ない、わよね?」

恐る恐る、恵はヒロを見る。
ヒロはいたずらっ子のような、ニヤリ顔。

「ホテルストリークでの夜は、最高だったからなぁ。
やっと、メグを自分一人のものに出来て…嬉し過ぎてぐちゃぐちゃに抱き潰したし。

大丈夫。
俺、良い父親になる自信あるから」

恵はポカンと空いた口が塞がらない。

「可能性は、あるよ。
いざという時は話しあおう。
俺たち、家族だろ?
未来への道は一つじゃないから」

そう言って、ヒロは笑顔で恵をぎゅっと抱きしめた。

「何も心配いらない。

メグ、愛してるから。
俺を信じて、待ってて」

「うん。

私も、ヒロを愛してる。

妊娠してたら知らせるね。ドキドキする。
…そうね。心当たりがありすぎるわ」

そして、二人は最後に軽く唇を合わせると、それぞれ行き先の違う車に乗り込んだ。


春も近い三月の終わり。
恵は五年間暮らし、愛する人のいる東京を後にした…


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