さよなら、センセイ
2.体育祭
二人でルールを決めた。
学校で会ったら挨拶と必要な事だけ話す。
出かけるときは、学校の知り合いに会わないよう、遠出する。
そして、秘密を守る為なら丹下家の力を使っても構わない。
丹下家は、日本屈指の電気機器メーカー『アリオン』の創業者一族で、父、久典は現社長だ。
だから、どこへ行ってもVIP扱いされる。
なるべく家の力は使いたくない。でも、二人で食事や買物したいとき、個室を用意してもらえるのは助かる。だから、そこまでは丹下の力を借りる。
それは、復縁を報告したヒロの母から提案され、恵もありがたく受け入れた。
そして。
土曜日の夜から日曜日はヒロが恵のマンションで過ごす。
土曜日、夜、10時30分。恵の暮らすマンションのドアが開く。ベルを鳴らすこともなく、合鍵で自分の家のように予備校帰りのヒロがやってくる。
一緒に食事をし、風呂に入り、時には抱き合い、時には朝まで英語の勉強したり。
1週間でただ一度、二人が恋人になる時間だ。
ルールを決めれば、それを守るだけ。
毎度どうしたらいいか悩んだり戸惑ったりせずにいられる。恵にとって、この解決方法は最適だった。