さよなら、センセイ
16.忘れない
一年目は、毎日のようにメールのやり取りをした。
しょっちゅう電話で声も聞いたし、夏休みには二人でアメリカ旅行もして、桜木いぶきにも、会った。
冬休みには、互いの実家を行き来した。
二年目。恵はクラス担任を任された。
ヒロは一条と共に、音楽配信会社を立ち上げていた。学校と事業を両立させ、それまで以上に忙しい日々を過ごしていた。
互いに忙しくなり、メールや電話の数が急速に減って行った。
三年目。大きな転機がやってくる。ヒロの父丹下久典が社長の座を退き、アリオンの会長となった。社長にはそれまで副社長を務めていた人物が就き、兄秀則は総務部長となった。
一条が大学を卒業し、ヒロと二人で始めた事業が軌道に乗ったことで、一条は名前だけを残し、事業から実質手を引いた。
ヒロにとっては、正念場になった。
一条が離れた事で、優秀なスタッフも数人離れてしまった。
そこでヒロが選んだのは、アリオン社との提携。
社名も《アリオン・エンタープライズ》にした。
しかも、アリオン社で長年音楽に携わってきた“音のプロフェッショナル”といえる職人を次々と引き抜いた。
彼らは、ヒロの兄秀則に、
『長年勤めてるジジィどもをアゴで使ってやってる。
言われたおんなじ作業を淡々と何十年もやるしか出来ない』
などと言われ、バカにされていた面々だ。
音楽を流すのは機器だが、聴くのはあくまで人間の耳。いくら機器で最高の音を作っても、耳が心地よく感じなければ、意味がない。
そう考えたヒロから見れば長年、音楽に携わった彼らの耳は、まさに宝だった。
挫折を繰り返しながら。
それでも、多くの人に支えられ、ヒロは着実に前に向かって成長する。