さよなら、センセイ
そして、四年目。
ヒロは卒業の年。

季節は夏。

恵は、一週間の夏休みがとれ、久しぶりに東京へと向かっていた。

ヒロにはメールを送っておいた。
返信は、ない。

もう、三ヶ月、ヒロからは何の連絡もなかった。

忙しいことは、良く分かっている。

最近では会いたいとか、せめて声だけでも聞きたいとか、切なくなることも少なくなった。
時間と距離が、恵の心を穏やかにしていた。
ただ、元気でいてくれれば、と思う。

最後の電話も、『ゴールデンウィークなのに仕事なんだ』と、疲れた声をしていた。

忙しいヒロに会えなくても、元気な様子だけでも知りたくて、夏休みに東京に行くことにした。


恵は真っ先にヒロのマンションを訪ねたが留守だった。
合鍵は持っていたが、もしかしたら他の女性の痕跡があったりしたら嫌なので、そのまま駅に戻った。

丹下の家に挨拶に行こうかとも思ったが、ここからでは遠い。一応電話をしてみたが留守のようで誰も出なかった。

とりあえず荷物を駅のロッカーに入れた。

駅まで来れば、慶長大学のキャンパスがすぐそばだ。

他に行くあてもない恵は、ヒロの通う大学のキャンパスへと向かった。



若さと希望で眩しいばかりの学生が行き交うキャンパス。

恵にも、あんな時期があった。
周りのマネして彼氏を作ったり、バイトに授業に忙しくて、いつも金欠で。

今はただ、懐かしい。


学生達が多くたむろっている建物があった。どうも、学食のようだ。
時計を見るとちょうど昼時。
慶長大学の学食は美味しい、と以前ヒロが言っていた事を思い出して、恵は中に入ってみた。

広い学食の中に、人だかりが出来ていた。しかも、女子が圧倒的に多い。

「今日は、丹下様がいらしているのよ」

その人だかりの一番端にいた女の子に何事かとたずねると、思いもかけない答えが返ってきた。

「夏休み中に卒論を仕上げてしまうおつもりらしくて。
今日、学校に来て良かったわ。お姿が見れるなんて、ラッキー」

うれしそうに顔をほころばせる女の子。
恵は、首をヒョイと伸ばして見てみると、女の子の輪の中で昼食をとっているヒロの姿が見えた。

少し、痩せたように見える。表情にも笑顔はない。だが、それが一層彼の男らしさを際立たせる。

ーー相変わらず、女の子の人気は不動ってことか。

ヒロが大学にいる、とわかって良かった。
後で電話すればいい。
忙しくて迷惑なら、ホテルに泊まればいいし。

恵は、その人だかりを割って入っていく気にもなれず、なるべく人のいない奥の席を取り、一人食事をとることにした。


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