さよなら、センセイ
何事かと振り返れば、恵の真後ろに、ヒロが立っていた。

「やっぱり、メグか。
男の人だかりが出来てて珍しいと思ってたところに、“丹下先生”なんて聞こえてきたから」


「た…た…丹下先輩!
そうか、“丹下”先生のお知り合いって丹下先輩のコトだったんですね」

本山はどうやらヒロに憧れているらしい。ヒロが現れた事が嬉しくてたまらないという顔をしている。


「今日、東京に行くってメールしておいたんだけど」

「あ、そうか、今日か!
悪い」

ヒロは時計を見て肩をすくめた。恵は笑って首を振る。

「いいの。私が勝手に決めたんだもの。
ヒロ、忙しいんでしょ?」

「今日はこれから会社に顔出ししようと思ってたけど…いいや、せっかくメグが来てくれたし。
2日しかいれないんだろ?」

メール、ちゃんと読んでいたようだ。

こくん、とうなづく恵に笑いかけ、ヒロはさりげなく隣にいた本山を立たせて自分がそこに座る。


「丹下様が笑ってる…あの女、誰?」
「なんでも、知り合いみたいよ?」


あちらこちらから、そんな声がする。
が、ヒロは全く気にするでもなく、恵が食べていた定食をつまみ食いなどしていた。

「丹下先生、あのぅ…」

ヒロに立たされてどうしたらいいかわからない本山が、困惑した様子で恵に話しかける。

「ん…?君は?」

問い返したのはヒロだ。

「あ、はい。経済学部の一年、本山大地です。花園牧高校出身で…丹下先生は、去年の自分の担任で…すごくお世話になりました」

「丹下先生…メグのこと?」

本山の言葉を拾ってヒロはニヤニヤと笑い、恵をコツンと肘でつつく。

「そうよ。私の大切な教え子よ。

本山君、ごめんね、失礼な態度ばかり。
ヒロの事、知ってたの?」

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