さよなら、センセイ
「…広宗くん、ずいぶんと、立派になったな…」

テレビを見て、恵の両親は泣きながら感動している。

恵も、久しぶりに動くヒロが見れてうれしい反面、ヒロが一層遠くなってしまったような、そんな淋しさを覚えていた。

ヒロからの電話もメールも途絶えて久しい。最後に会ったのはヒロの大学の卒業式だ。

ーー私のことは、忘れてしまったかな。

近頃ではそんな事も思い始めていた。
そして、婚姻届と同時に記入した離婚届をヒロがいつ提出しても取り乱すまい、といつも心に言い聞かせていた。


再び、テレビに目をやる。


「休日は、何を?」

「このところ、長い休みは中々取れなくて。大抵は寝ています」

「でも、社長、ルックスもまるでモデルさんのようで…モテますよね?」

それまで笑顔で答えていたヒロの顔がフッと曇る。

「私は結婚していますから」

「え、えぇ!?…すみません、お若いので、つい…あの、申し訳ございませんでした」

インタビュアーが手元の資料を慌てて確認し、ヒロの表情を見て真っ赤になって頭を下げた。
とたんにヒロの顔に笑顔がもどる。

「いえ、いいんですよ」

「で、では、社長のこれからの夢を聞かせて頂けますか?出来れば、お仕事の面と、プライベートのほうも」

「はい。まずは、アリオン・エンタープライズの成長を一過性のものにしない為に、これからも新しいことにドンドンチャレンジしていきたいと、思っています。

プライベートは…
実は私は学生結婚で結婚式を挙げてやれなかったので…
今は本当に忙しくて、妻には淋しい思いをさせていると思うので、華やかな結婚式を挙げたいと。
まぁ、なかなか難しいんですけどね」



ポタっと畳の上に涙が落ちる音がする。
恵の頬を伝い流れて落ちたものだ。

忘れられていなかった。
それだけでも充分うれしい。

「えがったな、恵。広宗くんも頑張っちょる。恵も、しっかり、やれ」

父の言葉に、恵は何度もうなづき、テレビに映るヒロの姿をしっかりと目に焼き付けた。


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