さよなら、センセイ
日曜日はどちらかに予定が入っていて、一緒にいれないことも多い。


この日も翌日に体育祭が控えており、ヒロが来た時に恵はまだ帰ってきていなかった。

ヒロは、買ってきた2人分の夕食を用意すると、参考書の並ぶ恵の机から一冊取り出して読みながら待っていた。


しばらくすると、携帯が鳴った。

「あ、私。今、タクシーに乗って帰るところ。もう、寝てた?」

恵の声の様子がおかしいことにすぐ気付く。

「1人?」
「ううん、他の先生と一緒。ごめんね、遅くなって。もうすぐ帰るね」

おそらく、そばに誰かいるのだろう。
察するに、ヒロに身を隠していて欲しいのだ。

「…わかった」

ヒロは部屋の電気を消して携帯を手にベランダで身をひそめる。
間も無くマンションの外にタクシーが止まるのが見えた。

恵の部屋は、二階。ひっそりとした夜だから声まで聞こえた。

「送っていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ遅くまで手伝っていただいて、ありがとうございました。
せめて夕食でもご馳走したかったのですが…」
「お気持ちだけありがたく頂戴いたします。
家族が夕食作って待ってくれていますから」

ヒロはベランダの柵ごしに下を見る。
タクシーには体育教師の中谷と英語教師の山中がいるのが見えた。

「では、また、明日」
恵はそう言ってマンションに入る。タクシーもドアを閉めて走り去った。


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