さよなら、センセイ
とかく恵の周りは賑やかだ。生徒達に慕われているのがよくわかる。
生徒達の笑顔が何よりそれを証明していた。

「あの通りなのです。丹下先生は、とても生徒に慕われていて」

校長の言葉に、相手の男は深く頷く。

「昔から彼女は、いつも生徒の為に全力で。
今でも、きっと変わらないんですね」

「…そうでしたね。
ご主人のほうが、よくご存知でしたね」

スーツの男…ヒロはうなづきながら、コーヒーに口をつける。
恵の笑い声がヒロの元まで聞こえていた。

「私は、恵にこのまま教師を続けて欲しいと思っています。
どうか、よろしくお願いします」

ヒロはそう言って振り返る。
学生達に囲まれて笑顔の恵。ヒロには気づいていない。
だから、あれは恵の素の笑顔。

あの笑顔を消したくはなかった。彼女にとって教師は叶えた夢であり、天職だから。

ヒロのポケットで携帯が鳴る。

「すみません、もう、戻らないとなりません。
恵のこと、よろしく、お願いいたします」

ヒロは校長に深々と頭を下げ、立ち上がった。恵に会って行くつもりだったが時間がない。

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