さよなら、センセイ
「ちょっと、今、校長と話してた男の人、見た?
チョーカッコいい!」

恵の隣の女子生徒が、おもむろに声を上げた。
「え、背中しか見えないじゃない」
向かいに座る女子生徒が首を伸ばしてみる。

「さっき、一瞬振り返ってこっち見たんだ。
あー行っちゃう。誰だろ?
めぐみ先生、見なかった?」

「え?」

食事を終えて口元を拭っていた恵は、生徒の声に顔を上げた。

男の後ろ姿だけが、見えた。


ーーヒロ…?


ふと、夫の姿とかぶる。
こんな所に居るはずない。
そうは思っても、居ても立っても居られず、恵は立ち上がった。

「丹下先生?」

「ちょっと、ごめんね」

恵は、慌てて後を追う。
彼は校舎を出ると、見送る校長に小さく頭を下げて、駐車場に向かう。
恵は、懸命に後を追いかけた。

「おや、丹下先生」

校長に追いついた時には、彼を乗せた車は既に走り去っていた。

「ご主人、お忙しいようですね」

校長は、それだけ言って校舎に戻っていった。


やっぱり、ヒロだった。
でも、何故?

あんなに近くにいたのに、声もかけてくれなかった。
それに、恵にではなく、校長に会いに来た理由は?




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