さよなら、センセイ
「スゲェ、噂をすれば…
まさか、若月先生から現れるとは」
「先生は変わんないなぁ」
「相変わらず、美人だなあー」
などと、皆、奥のテーブルを覗き込む。
だが、1人。綺羅だけが、気づいた。
「ヒロ。
正直に答えて。
今日、この店を指定したのは、ヒロ。
…知ってたんでしょ、めぐみ先生が今日ここに来るって」
ヒロは、小さく笑った。
「まぁ、な」
「しかも。私、しっかり聞いたわ。
めぐみ先生、一緒にいた人に、『丹下先生』って呼ばれてた。
どう言う事か、分かるように、答えて」
「「「えっ!」」」
一同の視線がヒロに集中する。
ヒロはいたずらが成功した子供のように、ニヤリと笑う。
「若月先生は、俺と結婚して、今は丹下恵。
だから、丹下先生」
一瞬、この場の時間が止まった。
ヒロ以外の4人は、今、得た情報が理解できない。
「ちょっと、待て。
丹下、結婚してたのか?
しかも、若月先生と?
いやいや、信じられない」
「そーいや、どっかのテレビのインタビューで、“学生結婚した”って聞いたことがあるような…」
「まじか?ドッキリじゃないのか?」
何も知らない男たちは、ただただ狼狽える。
「…ヒロ。
いつから?」
そんな中、ヒロに答えを求める質問をしたのは、綺羅。
「一緒に暮らし始めたのは、この四月から。
俺の仕事がやっと軌道に乗ったからな。
ずっと仕事に忙殺されてた。
皆と飲む事さえ出来なかったろ?」
ヒロの答えに、男達は、なるほど、とうなづく。
だが、それは綺羅の知りたい答えではなかった。
「結婚したのは、いつなの?」