さよなら、センセイ
「…立花さんの気持ち、すごくわかる」
最後に綺羅の悩みを聞いて、恵は、綺羅の肩をぎゅっと抱き寄せた。
「元々、優秀な人だったんでしょ、彼」
「そうなの。同期のエースだった。
アイツと付き合うってなったら、女の子達から羨ましがられて。
それなのに。
先生、どうしよう。
やっぱり別れた方がいいよね?」
すがりつくように恵を見つめる綺羅。
恵は、一口グラスに口をつけた。
少ない恵の恋愛経験から、綺羅にかける言葉を探し出す。
「想像してみて。
その彼が、いない生活。
彼でしか埋められない淋しさも、あると思う。
でも、彼がいないことで気持ちが軽くなるなら、それは、『彼氏がいる』ことに縛られているだけかもしれない。
それなら別れた方がいいかも。
淋しさは、時間が解決してくれるから、大丈夫。
ただ、彼が立花さんを本当に心から必要だと思ってくれていて、
離れることで淋しさじゃなくて、自分の半身が死んだような、彼がいなきゃ息も出来ないくらい辛いなら、
そんな苦しみが勝るなら…
何があっても、側にいた方がいい。
私はね、そうやってヒロの側を選んだの。
たとえ、ヒロの気持ちが変わって捨てられたとしても、私は私の意思で彼の側にいたんだから、後悔しない。
今でもそう思ってる。
彼が立ち直って、立花さんから去っていっても、それなら後悔はないはず」
綺羅は、コツンと恵の肩に頭を乗せた。
「先生。
私…もう、疲れちゃったの。
アイツがいると思うと、家にも、帰りたくない。
仕事場でも、アイツのせいで肩身が狭いし…」
「なんだ。
もう、答え、出てるじゃない」
「そうなんだけど…」
「こじれちゃって、別れ方がわからないんだろ、綺羅」
そこへ、黙って綺羅と恵の話を聞いていたヒロが話しかけた。
「そうよ。
もう、相変わらずヒロはハッキリ言ってくれるわね」
ヒロは呆れたように笑って、ポンと綺羅の頭に手を置く。
「しょーがねーな、綺羅。腐れ縁だ。
いっちょ、手を貸してやる。
ここには、弁護士の卵もいるしな」
「おー。任せろ。
しっかし、綺羅は男運ねぇなぁ。
大学ん時もストーカーされたりしてさ。
危なっかしいくせに、彼氏は途切れないし」
「ほんと。もう、めんどくせぇから、いっそ、オレらの誰かで手を打てよ」
綺羅は、目を見開いて、その場にいる4人の男達の顔を見る。
この中にいると、つい甘えたくなる。
懐かしい、高校時代を共に過ごした仲間たち。
疲れた心がほんわりと暖かくなっていく。