さよなら、センセイ
恵の願い叶って
暑くも寒くもない、さわやかな五月晴れになった日曜日。

光英学院高校の体育祭が開催された。


ヒロは走っても速く、目立つ。
ヒロが競技に出るたびに黄色い歓声が上がった。
ただ、本人からはあまりやる気が感じられない。

一方の恵は、スタートでフライングのチェックをしたり、ゴールテープの側で順位を確認したりと、大忙し。若い女性教師は貴重なので、引っ張りだこだ。

「あ、いたいた、若月先生、お願いします」

3年生の競技、借りセンセイ競走。指示された教師と指示されたように走ってゴールするもの。校長まで借り出され、生徒と腕を組んで走っている。

まず恵の名を引いたのは、背の低い女子。“おんぶ”と指示があったが、小さい彼女に恵はおぶれない。

「まるで、ネタの大きな寿司みたいだ」

笑い声が起きてしまう。
恵は、泣き出しそうな彼女をヒョイとおぶって、走り出した。
「若月先生!?」
「大丈夫、走るよ!」
ゴールテープを切る。
すると今度は、おおっと歓声が上がった。

「先生、ありがとございます!私、一位初めて!!」
「それは、よかった!」
「めぐみ先生ぇ!次!こっちも!」

休む間も無く、再び呼ばれる。
どうやら若手の教員の名前の割合が多く、恵をはじめとした新任教師は出ずっぱり。

< 17 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop