さよなら、センセイ
恵の名前を引いたのは、水泳部の立花綺羅だった。

「先生の名前引いちゃった。疲れてるのに、ごめんねー」
綺羅とは、大きな球を2人で抱えて走る。

「流石に連チャンは、キツイ〜」
「先生、ガンバレ!」
綺羅とゴールすると、キャーッと、黄色い歓声が上がった。

「さては、ヒロだな」
綺羅が笑いながら言った。

「丹下くん、すごいんだね」
恵は、荒い息を整えながら、スタートラインを見る。綺羅の言う通り、そこにはヒロの姿があった。

「一年の頃からまあまあ人気あったんだけど、最近は特に凄いんだよね。
笑うようになったからかな。
前はあんまり笑わなくて、ヤル気ない感じだったの。それもクールで良かったけど」

ヒロは、中谷の名を引いたらしい。二人三脚のようだ。

「若月先生!」

恵は、また呼ばれた。

「めぐみ先生、お気の毒。頑張れー」
綺羅に励まされ、恵はフラフラとまたフィールドに戻る。ラッキーなことにおんぶだったので、走らずに済んだ。


「大丈夫?先生重いでしょう?」

恵をおんぶした男子生徒は走らずに歩いている。ヒロと中谷はとっくにゴールしていた。

「へーき。先生の胸、柔らかいしぃ」
どうやら彼は背中に押し付けられた恵の胸を味わっていたらしい。

「こら、走りなさい!」

恵は、彼の肩をペシッとはたき、胸を浮かせた。彼も仕方なく小走りでゴールしたが、顔がにやけたままだ。

「おい、小宮どうしたんだよ」
そんな彼を訝りながら、ヒロが声をかけた。

「あ、丹下。オレさー、ラッキー。若月さ、結構、胸大っきくて〜ムギュッと背中に…へへへ」

ヒロはムッとしたが、顔には出さない。
「いつまで余韻に浸ってるんだよ、ほら、行くぞ」

応援席に戻るヒロと、また、呼ばれて向かう恵。2人がすれ違う。
わずかに肩が触れる。
なるべく、目は合わせない。

それでも、触れた肩が、熱い…


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