さよなら、センセイ

結局、恵について何もわからないまま、いたずらに時間だけが過ぎた。

春休みの間に、ヒロは誕生日を迎え、18歳になっていた。だが、祝って欲しい人のいない誕生日は、虚しいだけだった。



そして、始業式。


長い長い校長の話。
あくびして半分眠りながらぼんやり座っていた。


「では、新任の先生の紹介です」
司会の教頭の声。


ヒロは眠気に負けて、まぶたを閉じていた。


「…では、次ですね。
産休の佐藤先生に代わりまして、若月先生です」

ワカツキ…?

その名にヒロは眠りの海から浮上した。


壇上に立つ人を見る。
4人の新任教師。
一番端に立ち、紹介されて一歩前に出た女性。


ヒロの眠気は一瞬にしてふきとんだ。


長かった髪がショートになっていた。少し痩せたような気もする。


だか、間違いなく、ヒロの愛しい彼女だ。


「若月先生には、主に2年生の英語を担当してもらいます。
また、先生は、インターハイ出場経験もあるということなので、水泳部顧問もお願いします」

教頭の説明ににっこり微笑み、恵が深々とお辞儀をした。


「若月恵です。よろしくお願いします」


久しぶりの恵の姿に、ヒロは全てを理解した。
恵はこの学校に職が決まり、それでヒロから去っていったのだ。

どうして言ってくれなかったんだろう。
わかっていれば、何か打開策を…

いや、恵は、嘘のつけない真っ直ぐな性格。ヒロと付き合っていることを隠して教職につくことを許せなかったのだろう。


緊張の面持ちで壇上に立つ恵。


居場所さえわかれば、こっちのもの。

俺を心配させた罰は、受けてもらおう。
俺を怒らせたらどうなるか。

ヒロの口元は歪んだ笑みを浮かべた。




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