さよなら、センセイ
「シップって、ありましたっけ?」
「エアーで出るタイプを用意しておきましたよ!
若月先生、今日は大活躍ですね!」
「あの借りセンセイ競走には参りました。午後はリレーに出るんです。倒れそうです」
「若さってすごいわ〜応援してますよ」
保健医に背中を押されて、恵は保健室を出る。
グラウンドへの近道で中庭を通り抜け、校舎の裏手をまわった。
その校舎の陰にひと組の男女が向かいあって立っている。恵は慌てて戻ろうとした、が。
「丹下センパイ、好きです」
聞こえた言葉にビックリして恵は思わず立ち止まる。
「わりぃ、オレ付き合ってるヤツいるから」
「それって、立花センパイですか!?」
女の子の声に聞き覚えがある。水泳部に入った新一年生だ。
「山下は可愛い後輩だよ、それじゃ、ダメかい?」
「私は真剣に先輩の事、好きなんです。先輩に、付き合っている人がいるらしいことは知っています。
それが立花センパイなら、美人だし、ステキだし、お似合いだからあきらめられます。
でも…違うなら…」
「綺羅じゃない。
でも、俺の好きな人は、綺羅なんて足元にも及ばない、最高の女だよ。
山下、悪いけど」
ヒロがそう言うと、女の子は、ダダッとグラウンドに駆けていく。
ふうっとため息をつき、ヒロは校舎の壁にもたれながら手にしていたペットボトルに口をつけた。
「ちょっとヒロ、山下さんに何て言ったのよ」
今度はグラウンドから綺羅が怒りながら走ってきた。
「何って、別に」
「泣いてたわよ。水泳部も辞めますって。
ヒロらしくないじゃない。女の子に告白されて泣かせるなんて
「テキトーに女と遊ぶのを辞めたのは、綺羅が一番良く知ってるだろ?」
そこへ昼休みが終わる旨の放送がかかる。