さよなら、センセイ

「すごい、すごいですよ、若月先生!!」

タオルと水を手に、山中が走り終えた恵にかけよる。恵はとりあえず受け取ると、その場にしゃがみ込んで荒い息でリレーの行方を見守った。

水泳部は、三位。走者は綺羅。一位の陸上部と二位のバスケ部と1mくらいづつ差がある。

そして、綺羅からアンカーのヒロにバトンが渡った。
ヒロの顔つきが変わる。さっきまでの力を抜いたやる気がない感じではない。本気の顔つきだ。
みるみる差が縮まる。そして何と、陸上部をゴール寸前で追い抜き、一位でゴールした。
ヒロの周りに水泳部の面々が集まって大騒ぎだ。

「いや、まいった。完敗だ」

陸上部顧問で教員チームのアンカーだった中谷が汗をふきふき恵の元へ来る。
教員チームは、ビリだった。

「私もビックリしました。丹下くんがあんなに速いなんて」

「あいつ中学の時、陸上部で都大会くらいまで行ったんじゃなかったかな。それでウチの部に入れたかったんですが、高校に入ったら水泳がやりたいって」

恵も聞いたことがあった。今時流行りのサッカーとかバスケといったスポーツをやらないの?と。ヒロは、団体競技は嫌いだと言った。
兄、秀則が団体競技を好むから、自分は個人競技を好むようになったと。

しかし、これでまたヒロの人気は上がりそうだ。
皆に囲まれて、まんざらでもない笑顔のヒロを見る。輝くようなその姿は、紛れもなくまだ18歳の高校生。
恵のものではない、もう一つの彼の姿だった。


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