さよなら、センセイ
「じゃあ、先生、高校生の時は?
付き合ってる人、いた?」
「高校生の時は、水泳一色。
と、いうのも、水泳部のコーチが好きだったからなんだけどね。
コーチに会いたくて、練習は欠かさず行ったなぁ」
恋バナになりそうで、女子からキャッとウキウキした声が上がる。
「卒業の時に、もう会えなくなると思って告白したんだけど、勿論、見事撃沈。
でも、今思えば、告白しておいて良かった。後悔しなくて済んだもの。
思いは自分の中に秘めたままじゃ、
後悔にしかならないから」
嘘偽りのない、真っ直ぐな恵の言葉は、青春真っ盛りの高校生の胸を、直球で射抜く。
あれほど賑やかだったその場がシンとなる。
悩み多き高校時代。色々抱えた思い。
恵なら、わかってくれる。
恵は、この場の皆の心を捉えてしまった。
ーーさすがはメグ。
やっぱ、教師、向いてるよ。
ヒロは、一人小さく笑ってしまう。
「偉そうに言っちゃった。
失恋した時は、水泳なんてあんなに頑張るんじゃなかったって思ったよ。ホント練習辛かったし。
でも、あの時、練習頑張ってインターハイ出れたから、今、ここにいる。
そう思えば、失恋したけど、練習は無駄じゃなかったの。
無駄なことなんて、何にもなかった」
「失恋したから、今の最高のカレシにも出会えたしね!
めぐみ先生!
聞いたら何でも答えてくれて、
もー好き!」
綺羅がぎゅっと恵に抱きつく。
「あ、立花、ズルイ。
若月、オレも!好き!」
男子部員がおどけて恵に抱きつこうとする。
「男子はダメ〜どさくさに紛れて、胸とか触る気でしょ〜やらしーんだから」
「いやいや、先生にそんな事しませーんって
…チッ、バレたか。
あわよくば、触りたかった〜」
綺羅が手を払い、男子がワザとおどけるとどっと笑いが起きる。
再び会話が弾み出す。恵はホッとして壁にもたれかかった。
大丈夫だよね、ヒロ。
私、教師としてうまくやってるよね?
完璧だよ。さすがメグ。
コイツら皆、メグにイチコロだ。
ヒロとの間には、綺羅がいる。
近いけど遠い。だけど思いは繋がっていた。