さよなら、センセイ
迎えに来たタクシーに恵を乗せ、その隣にヒロ、そして先に降りる綺羅が乗り込み、タクシーは出発した。
「めぐみ先生、ぐっすりだね。寝顔可愛い。
…こんな先生、初めてよ。良い先生に出会えて良かった」
ドアに体をもたれ、恵は寝息をたてている。
多分、隣にヒロがいるからだろう。無防備な寝顔だ。
「相当、走ってたみたいだからな。
しかも、毎回全力。ちょっと珍しいタイプの先生だよな。
…悪くない」
ヒロは綺羅の手前、ぶっきらぼうになるべく素っ気なく恵を褒めた。
しばらくは、黙って流れていく窓の外の景色を見ていた。
が、綺羅が思いつめたように切り出した。
「ねぇ、ヒロ。
前みたいに、戻れないかな。私たち」
「前みたいに?今だって、友達だろ?」
「もっと、親しくってコト。ヒロは私の気持ち知ってるクセに」
「今更どうしたんだよ」
「めぐみ先生の“思いは自分の中に秘めたままじゃ、後悔にしかならない”って言葉に刺激受けたからね」
まさか、恵の言葉に綺羅の心を揺さぶられたとは。
ヒロは、小さく息をついた。
綺羅も恵に影響を受けて、自分の気持ちに真っ直ぐ向き合っている。
ーーならば、俺も正直に答えるべきだな。
「綺羅、前にも言ったろ。オレ、もう来るもの拒まずで女の子と遊ぶの、辞めたんだ。
綺羅のことは好きだよ。
でも、それは友達としてだ。
オレ、見つけたんだ。若月先生の言葉を借りれば、“最高の人”に。彼女は、俺を変えてくれた。
綺羅には出来なかっただろ?」
ヒロの変化を綺羅は痛いほど感じていた。
変わって初めて気づいたのだ。ヒロが変わりたがっていたことに。
友達として、時に女として近くに居たのに、そんなヒロに気づけなかった。