さよなら、センセイ
「ひとつ、聞いていい?
その人は、どうやって、ヒロを変えたの?
どうやって、ヒロの心を開かせたの?」

「…駆け引きなく、自然体のまま、彼女は俺に接してくれる。いつも、一生懸命で…丹下の御曹司なんて事も関係なく。

自然体ってさ、簡単そうだけど、難しいよな。特に俺は、何をしても、“丹下”の名がつきまとうし」

そこから先はもう言葉はなかった。
綺羅は自分の心に問いかけてみる。
もし、ヒロから丹下のブランドを取っても、好きな気持ちは、変わらない?ヒロがお金のない、普通の高校生だったら?


わからない。今まで、考えた事もなかった。


タクシーが綺羅の家に着く。ドアが開いた。

「今日はおつかれさん。綺羅、じゃあな」
「うん。また。
めぐみ先生、寝たままか。よっぽど疲れたのね。
先生の事、よろしくね。じゃ」


綺羅を降ろし、タクシーは再び走り出す。


恵に制服の上着を掛けてやり、運転手に次の行き先を告げて、ヒロは座席に改めて深く座り直した。

クルマが大きくカーブすると、恵の体がグラリと揺れた。そして、頭がヒロの肩にコツンと乗る。

恋人の距離。綺羅がいなくなったことに気づいたのだろうか?
ヒロは上着で隠れた彼女の手をそっと握った。


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