さよなら、センセイ
ーー最高の人、か。
実は恵が好きな人の話をした時、何を言い出すのか、ヒロは気が気ではなかった。もしかしたら、“居ない”と、存在を否定されるのではないか、とも思った。
それが…
思い出すだけでつい笑みが零れる。
恵の最高の人、それは自分の事だと、叫びたくなるくらい嬉しかった。
タクシーが恵のマンションの前に停まる。
「若月先生、着いたよ」
「う…ん」
ヒロは支払いを済ませ、恵に肩を貸しながらタクシーを降りた。
「手伝いましょうか?」
「あ、大丈夫です。家族の方に来てもらいますから」
「それまで、待ちますか?」
「いや、俺の家、歩いてもこっからすぐなので、大丈夫です」
運転手の好意を断ると、タクシーは走り去った。
遠ざかるクルマの音で、恵はぼんやりと目を開ける。
「丹下くん?
…あれ、ここ…」
「もう、俺しかいないよ、メグ。さ、帰ろ」
ヒロが抱きかかえて恵を部屋に運ぶ。
「マズイな、生徒の前で寝ちゃったなんて」
「大丈夫。皆、メグが疲れてるって知ってるから。
それに、メグ、いつの間に店に金払ってたんだよ。お釣り、預かってる。皆、ビックリして喜んでたぞ」
「それは、よかった」
恵は部屋に着くと、そのままベッドに倒れこんだ。
それから、カバンを片付けてくれるヒロを改めて見た。
「ヒロ、この部屋に制服で来るの初めてね。
今日、かっこよかったなぁ。女の子達が騒ぐのもわかる。風を切って走るって言葉がぴったりで…あんなヒロ、初めて見た」
寝起きのトロンとした目で、思い出してニヤニヤしている恵。