さよなら、センセイ

「高校生の丹下広宗も好きよ。
でも、わたしだけのヒロはもっとスキ」

言っておきながら、恵は恥ずかしげにはにかんだ。年上だということを忘れてしまうほど可愛らしい表情。

「俺も。教師の若月恵センセイも好きだ。
でも、俺だけのメグは、もっと…狂いそうなほど、好きだ」

ヒロは、恵の唇に自分のそれを重ねた。
恵は、そっと瞳を閉じる。まぶたの裏には誰よりも速くゴールテープを切るヒロの姿が焼き付いていた。

「泳ぎのセンスもいい。走っても速い。近頃じゃ、勉強も上位に入るし、見た目に至っては言うことなし。
本気のヒロは、王子様みたい。
モテるはずね」

「しかも、こんなステキな彼女までいるんだ。俺ってすごいだろ?
ヒデが羨むのも、わかるよな」


ヒデとは、ヒロの兄秀則のこと。
何事にもやる気を無くしたのは、兄のせい。
何をしても、兄と比べられる。
ヒロは常に勝てない。勝てないように操作されているから。


ーーいっしょうけんめいやるなんて、ばかばかしい。
いっそ、同じ土俵にいなければいいんだ。


だが、恵に会ってヒロは変わった。
彼女を守るために、兄の呪縛を引きちぎる。

秀則はヒロを敵対視し、子供の頃から兄に対する劣等感を植え付け続けた。
自分が優位に立つ為には何でもする。
弟の彼女を利用する事だって…

だから、戦う。
もう、逃げない。自分の力を卑下しない。


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