さよなら、センセイ
学校に戻った水泳部の面々は、初の快挙で校長直々に出迎えられた。
「いやぁ素晴らしい!君達、よく頑張ったなぁ。
特に丹下くん!君にはまったく毎度ながら驚かされるな」
校長をはじめ、教職員は相好を崩して彼らを褒めたたえた。
「これも、全て、若月先生のご指導の賜物です」
ヒロはそう言って、他の部員らと共に校舎へと入っていく。
「いやぁ、丹下の口からあんな言葉を聞くとは…
若月先生、あの、やる気のない水泳部をどうやって立て直したのですか?」
恵も出迎えの教職員と共に職員室へ戻る。
「別に、特別なことは何もしていません。
みんなが努力した結果です」
「若月先生はご存知ないでしょうが、部長の丹下は、去年の夏までどうにも手のつけられない生徒で。
好きな教科や興味があることには驚くほどの才能を発揮するのですが、
反面、気の向かないことは徹底拒否。
学校にも、来たり来なかったり。
ほら、山中先生の英語のテストなんて…」
「そうです。記述問題も記号問題も答えは全部○(マル)なんですよ。
注意をすると、次は全部ABCを繰り返すだけとか、ホント、手を焼きました。
それが、何があったのか、昨年の二学期からまるで人が変わりましてね。生き生きとした、というか、英語の成績もグンと伸びまして。あんなに変わった生徒は初めてです」
「へぇ、丹下くんが…」
恵は相槌をうつ。
「夏休みに一体何があったのかなぁ。
教えてくれないんですよ」
その答えは、恵だけが知っている。
恵との出会い。そして心を通わせあって、ヒロは変わったのだ。
やる気ない、手のつけられないヒロはもういない。
今日の競技前の緊張した顔、やりきって結果を出して喜んだ顔。高校生らしい活き活きとしたヒロを間近で見れた事、恵にとって何よりも幸せだった。