さよなら、センセイ

「ヒデ、会社の方はどう?」

ヒロの部屋をキョロキョロと見渡す秀則。あまりいい気はしないから、声をかけた。

「まぁね。やっぱり、勉強より実践の方が面白いよ。
長年勤めてるジジィどもをアゴで使ってやってる。
言われたおんなじ作業を淡々と何十年もやるしか出来ないんだぜ。バカみてえ」

秀則はそう言って、さりげなくヒロの机に歩み寄る。そこは参考書やプリントでごちゃごちゃだ。
ヒロは慌てて机の上を片付ける。成績表や、恵の形跡でも見つけられては、たまらない。

「ヒロこそどうなんだよ。最近結構頑張ってるみたいじゃないか?」

「そうでもないよ。
オレ、ヒデと違って頭良くないしさ。
とりあえず卒業させてもらわなきゃ」

「さすがにな、卒業は出来ないとまずいな。

ところで。
久坂夫人の妹とはあれからどうなってる?」

国会議員の若手ホープ、久坂議員の夫人の妹。
秀則にとって恵はその程度にしか記憶されていないことに、ヒロはやや腹を立てる。

「どうって…」

「どこで教師やってるのかな。
今フリーなら俺、彼女と付き合いたいんだよね。頭も悪くなさそうだし、見かけもまあまあだった。しかも久坂夫人の妹だしな。
でもなぁ、そうすると、ヒロのお古ってコトになるよなぁ」

秀則がそう言った途端、ヒロの頭に一気に血がのぼった。
思わず、秀則の胸ぐらをつかむ。

「なんだよ、ヒロ。お前のお古でも、ちゃんと可愛がってやるよ」
「ふざけんな。ヒデになんか渡さない」

「やっぱりな。まだ付き合ってるのか」

秀則の誘導にまんまと引っかかった事に気付き、ヒロは舌打ちをして秀則から離れた。



「お前、やっぱガキだな。
それにしても、珍しいこともあるもんだ。お前がそんなに一人の女に入れ込むなんて。
彼女、俺と同い年だろ?
お前、年上好みだったっけ?」

秀則の誘導にまんまと引っかかってしまい、ヒロは舌打ちをする。

秀則は、そんなヒロに危機感を感じていた。
本当は天賦の才を持つ弟。
だがそれは、発揮しなければただの宝の持ち腐れ。


だから、

これ以上、ヒロを増長させてはいけない。

ヒロを潰すには、



……恵を潰せばいい。



秀則はチラリとヒロを見る。ヒロは恵の居場所を教えないだろう。だが、どこかに彼女の居場所を示すものがあるはずだ。

「まぁ、いい。
ヒロ、あんまり女にのめり込むなよ。破滅するぞ」

秀則はそう言ってヒロの部屋から出て行った。
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