さよなら、センセイ
「こんばんは」

「こんばんは、秀則さん」

ドアを開けた恵の体を押しのけるように秀則は、なかば強引に部屋の中へと入った。

「今、お茶を入れます」

「いえ、お構いなく。すぐに帰りますから」

恵はキッチンでヤカンを火にかける。その間にもう一度ヒロにリダイヤルするが、やはり出ない。



諦めて恵はお茶を淹れ、それを挟んで秀則の向かいに座った。

「よく、ここが分かりましたね」

「いや、驚きましたよ。まさか貴女がヒロの学校にお勤めになられているなんて。
よほどヒロに執着しているようだ。

いや、執着しているのは、“丹下”にか?」

酷く棘のある秀則の言葉に、恵は息を飲む。

「…偶然なんです」

「偶然⁈そんなバカな。
東京には幾つの高校があると思っているんですか⁉︎まったく、呆れた女だ。

学校側が貴女とヒロの不適切な関係を、知ったらどうするでしょうね。
あそこは有名な進学校、表沙汰になる前に貴女をクビにヒロを退学にでもしてもみ消すかな」


「何がおっしゃりたいの?」

恵は秀則の含みのある言い回しに疲れる。
恵が言われたくない事をわざと毒をたっぷり盛り込んで言っているからには、その奥に彼の真意があるはず。

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