さよなら、センセイ
「センセー」
そこへ、綺羅が手をあげた。

「インターハイ出たって言うセンセーの泳ぎ、見たーい」
「え、私の?」
「皆も、見たいよねー?」

綺羅が言うと、一同がうなづく。
まだ若い恵の事をちょっと小馬鹿にしたように。

だが、恵はそんな生徒達の態度を気にもかけず、真面目に答えた。

「うーん、現役の皆の前じゃ恥ずかしいし、
速くはもう泳げないけど…」


恵はそう前置きをしつつパーカーとハーフパンツを脱ぐと、あっと言う間にプールに飛び込んだ。

その飛び込む姿は、まるでイルカのように美しく、それだけで全員の視線を釘付けにする。

まずは平泳ぎ。折り返してバタフライ。さらに背泳ぎ。最後はクロール。
まるで魚のよう。泳ぐことが本当に好きだということがわかる。全ての形が完成されていていったいどれが得意なのか、わからない。


恵が水からあがると、自然に拍手が起きた。


「すごーい!センセ、すごい」

羨望の声があがり、恵は照れながらタオルを首にかけた。
恵に触発されたのか部員達が次々とプールに飛び込んで行った。

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