さよなら、センセイ


マンションの明かりに照らされた2人の姿を、ヒロはカーテンの隙間から見ていた。

山中が発した言葉で恵の表情がさっと変わったのを、見逃さなかった。
ヒロはぎゅっとカーテンを握りしめて、飛び出していきたい衝動をグッと抑える。


ーー人を疑わない、あの純粋さはこんな時には罪だよな。
危なっかしくて、もどかしい。


うつむく恵の肩に山中は両手を置いた。恵はしきりに首を横に振っている。
山中は彼女の耳元で何かをささやき、去って行った。

恵も同時にきびすを返す。足音が近づいて、恵は勢いよく部屋へと飛び込んできた。その顔は、真っ赤だ。


「…や、山中先生が、わ…私のこと、す…好き、だって。
け…結婚を、ぜ…前提に付き合いたいって…」

「そう。
やっぱりな」

動揺している恵に反して、ヒロは静かにそう言ってソファに座った。

「今、お付き合いしている人がいるって言ったんだけど…」
「アイツ、直行タイプだもんな。会わせてくれとか言ってきたんだろ?」

「どうして、わかるの⁉︎」

「そりゃ、経験値の差」
「ん、もう〜。18歳のくせに〜」

恵はヒロの隣に座って、その肩にトンと頭を乗せた。ヒロはそんな恵の肩を優しく抱き寄せる。
ヒロの温もりが心地よく、恵はそっと目を閉じた。



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