さよなら、センセイ
恵は近くの植え込みのレンガに腰掛けた。
ヒロの連れている女の子は、ジュンのお気に入りのモデルの卵だ。彼女の存在が疑われた時に協力してもらう、とヒロが言っていた。
彼女は何と言ってもその辺の女優より美人で人目を引く。しかも、ジュンのデザインだろう、着ている服も彼女のスタイルの良さを際立たせる。
誰もが羨む“カノジョ”
よく似合う二人。事情はわかっていても、心が痛む。
いつかはあんな風に誰かにヒロを奪われる。
その時、私はどうする?
笑って別れて、諦める?
…バカね。
信じる。ヒロを信じると、誓ったでしょ?
「若月先生。
先程は、すみませんでした。
具合は、いかがですか?」
そこへ山中が現れた。
「ご心配をおかけしました。もう、だいぶいいんです」
「でも、まだ痛みますよね?
今日、僕、車なんです。ご自宅まで送りますよ」
「あ、いえ、大丈夫ですから」
恵が断ると、山中はスッと恵の耳元でささやいた。
「送らせて下さい。
昨日の話の続きもしたいですし」
恵はハッとなり小さくうなづいて立ち上がった。
交際をはっきりと断るタイミングが欲しかった。
歩きざまに振り返りヒロの姿を探す。かがり火の炎越しにヒロを見つけた。カノジョと談笑している。
ヒロ、信じてるから。
あと腐れないように、私、ちゃんと断る。
山中の後ろをやや足を引きづりながらついて行く恵の後ろ姿。
カノジョと喋っているヒロの、目だけはその姿を捉えていた。