さよなら、センセイ
「若月先生、僕は、本気ですから」
やっと口火を切ったのは山中だ。
「私、昨日も言いましたけれどお付き合いしている人がいます」
「その一言で、あきらめろ、と言うんですか?
聞きましたよね、その人と結婚まで考えているんですか?と。あなたは答えなかった。
本気なら、ずっと一緒にいたいと、結婚したいと思わないんですか?
単に好きで、今だけでいいような恋愛ならゲームと変わりません。刹那的で意味がない」
「そんな…私、まだ働き始めたばかりで、結婚なんてまだ考えられないんです」
「もちろん、今すぐとは言わない。でも、考えてほしい」
間髪入れずに責めてくる山中に恵はなかなか対抗できずにいた。
恵は、手元の湯のみをじっと見つめ言葉を探す。だが、なんと言ったらいいのか、わからない。
ヒロがよく言う恋愛経験値が低すぎて言葉が見つからない。
おもむろに山中は立ち上がった。
「僕を選べば、いい。
あなたを大切にしてあげます。
そんな、遊びの男なんかより」
テーブルを回って恵に近寄る。
恵は、危機を感じて立ち上がりかけたところで、手首を掴まれた。
「いやっ‼︎」
とっさに叫んで、振り払う。だが、掴まれた手首は怪我をしている。痛みでチカラが入らない。
その時だった。
玄関の鍵がガチャリと開く音がした。