さよなら、センセイ

「丹下、お前、どうしてここに?」

「俺は水泳部を代表して、若月先生のお見舞いがてら、様子を見に来たんです。
山中先生こそ、どうしてこちらに?」

動揺して、青ざめる恵を挟み、ヒロは冷静に答える。

「どうしてって…それは…」

逆に山中はしどろもどろだ。

「あーお二人は、付き合ってらしたんですか?これは、これは、お邪魔してしまったみたいで」

「こんな時間に、生徒が見舞いに来るなんて…?」

「若月先生、足を怪我してましたからね、無事に帰れたか、気になって。
山中先生が送ってたんですね」


役者はどう見てもヒロの方が上手だ。


「若月先生なら、大丈夫だ」

「ホントですか?若月先生の顔、真っ青ですよ。さっき、悲鳴みたいなのも聞こえたし。

山中先生、何か…」

「いや、何もしてない!
丹下!なんだ、その目は!勝手にやってきて、何を考えてるんだ!


いや…まてよ。


お前、鍵、玄関の鍵はどうした…?」

やっと我に返る山中。

「インターフォンは鳴らなかった。
鍵が開く音はした。
そうしたら、お前がいた」

ヒロはふっと笑いながら玄関に上がりドアを閉めた。
そしてまるで我が家のように部屋に上がりソファにどっかりと腰を下ろす。

それだけで、ヒロはこの部屋に馴染む。
誰が見ても、この部屋の住人だ。


恵は、鼓動を押さえてぎゅっと拳を握る。


ついに、この時が来てしまった。
考えたことは何度もあった。二人の仲がバレてしまったら、と。
でも、こんな形でとは、思わなかった。

落ち着いて。考えるの。
どうやって、切りぬけるかを。


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