さよなら、センセイ
「失礼します」
室内からの返事も待たずに入室したのは…
「丹下…」
山中がすぐにその姿を確認する。
ヒロは、臆することなく彼らに歩み寄る。
恵が手にしている辞表に気づき、顔をゆがめた。
「教頭の声、廊下まで響いてましたよ」
ヒロはそう言って、恵の傍に立つ。
「丹下くんは、教室に戻りなさい」
恵はヒロを見もせず、こわばった表情のまま静かに言った。
「俺も、この話し合いに参加する権利がありますから」
「話し合いも何も、もう若月先生の依願退職で結論出しましょう!」
早く面倒から解放されたい。
教師の声は叫びにも似ていた。
「教頭。
もし、若月先生を辞めさせたら、
丹下は今後一切、学院に寄付はしない。
それに、理事長に働きかけて、生徒の信頼が薄いような教員には辞めてもらいます」
「馬鹿な。そんなこと…」
「出来ないと思いますか?
俺は、丹下広宗ですよ。
今回の件は、一条先輩にも報告済みです。
理事長は一条グループの息がかかる人物です。
日頃から教員の質の低下に頭を悩ませていたそうですから、ちょうどいいキッカケになるかもしれませんね」
教頭はやましいところがあるのだろう。みるみる青ざめていく。