さよなら、センセイ
「まぁまぁ、丹下くん。そんなに急かさないで。
君にも聞きたかったんです。ちょうどよかった」
校長はヒロの脅しにも全く動じない。
「実は先程、丹下くんのお母様と電話で話をしたんだ。
全て話してくれたよ。元々、若月先生が学生の頃に家庭教師として丹下くんを教えていたそうじゃないか。
去年の夏から」
「去年の、夏…?」
山中がハッとなる。
去年の夏まで、ヒロは手のつけられない、どうしようもなく無気力な生徒だった。
だが、今、目の前にいるヒロは、静かだが瞳に光を宿し、得体の知れない可能性を感じさせるオーラすら発している。
「二人を認めてやってほしいと、涙ながらに訴えてこられてね。
親御さんがこれほどまでに応援していらっしゃるのに、我々が目を吊り上げるのも、おかしいよな、丹下くん」
校長が言うと、ヒロは小さく笑った。
「校長先生。
今の話は、ここだけにしておいて下さい。
若月先生と自分は、単なる教師と生徒。それ以上のものは、ありません。
自分が卒業した後は、わかりませんが」
「い…今更、何を言ってるんだ、丹下!
昨夜、若月先生の部屋に…」
「山中先生こそ、独身で一人暮らしの女性の部屋に、トイレを借りるフリして上がり込んで、何をしようとしていたんですか?
若月先生、ひっぱたかれた頬、真っ赤にひどく腫れたんですよ」
ヒロにピシャリと言われ、やましい下心を見透かされた山中は、何も、言い返せない。